婆娑羅太平記

 黒須紀一郎の小説。7月中ごろからで、6冊やっと読み終えた。網野善次が「日本の社会は南北朝を境に大きく変わった」と評価していたのだが、今まで具体的にその時期の社会状況を知らなかったもので何とも言えなかったのだが。この小説は我のこの時期に対する認識を大きく変えるのに役立った。この時期は日本の歴史上初めて庶民が歴史に登場し、「悪党」などの名で大きな影響を与えた時期だったのだ。平安以来の価値観が崩壊し、戦争の形まで変わってしまった。
 一方では後醍醐が唱えた天皇主権の復活が、当時の庶民践民の代表だった「楠木正成」を忠臣に祭上げてまで、明治から戦前の日本にまで呪縛として影響を与えてきたという事実がよく告発されている。
 しかしもう一方、楠木正成や当時勃興した庶民勢力が、観阿弥世阿弥を生み出し、文化と様々な抵抗の歴史を結びつけてきたこと。おそらく出雲の阿国もその流れだろう。そして江戸期の度重なる一揆、明治の自由民権運動、戦前戦後の日本共産党草の根運動へとつながってきた歴史がよくわかる一書であった。
 「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれかん、遊ぶ子供の声聞けば、わが身さへこそ動(ゆる)がるれ」という婆娑羅大名の一言。今に通ずるものがあると思うがどうであろうか。

婆娑羅太平記〈1〉真言立川流

婆娑羅太平記〈1〉真言立川流